人が生きるうえでの「衣食住行」農地、一番大切なのは「食」ではないでしょうか。
大きくは国同士の外交でも、小さくは個人の話し合いでも、祝い事の会合、そのほか、人の集まる時はいつの場合も、「食べること」をぬきには考えられません。「食べること」は、その集まりの重要な部分を占め、ひとつの食卓を囲むとき、人の心は和やかに解け合います。人と人とのつながりを密接にします。

中国に生まれ、子どものころはキッチンに入ったことはなかった私が、結婚して家庭をもち、戦後日本に永住して以来、毎日家族のためにつくり、日本や欧米の方々にお教えし、全国100ヶ所以上の地方で講習をし、また、たえず来訪されるお客さまをもてなす生活の中で生まれ育ったわが家の味は、幸いにも娘から孫へと伝わりました。

友の輪が大きく広がったこの60年、
支えて下さったすべての方々に、厚く御礼申し上げます。

華都飯店 一代目馬  遅伯昌

「愛するへれんへ　あなたが、いつでも元気で幸せで愛らしくあるようにお料理を通じて、世界中の誰とでも友達になれる者ですよ」　母

これは、今から40年ほど前、私がアメリカの大学に留学するときに、母が自分の料理書に添えて贈ってくれた言葉です。確かに、これまで沢山の素晴らしい友人に恵まれたことを思うと、料理は国境を越え、友情を深める手段として最高のものといえます。

母・私・娘の三世代は、それぞれ異なる生活、時代、環境の中で、家族のため、自分のため、友達のためと、いろいろな場面で作る料理が、見た目こそ新素材で、違った感じのものとなりますが、根本は変わらないと私は思います。
私が母から伝えられたことをしっかりと自分の生活の中で浸透させ、それを娘が自分流に仕上げていくことが、次世代に伝える意義ではないでしょうか。

華都飯店 二代目馬 へれん

小さい頃から祖母の料理教室を覗いては、餃子の皮包みを手伝ったり、野菜を洗ったり、よくお手伝いをしていた私ですが、祖母からも母からも「私たちと同じように料理の道を」と言われたことは一度もありませんでした。
けれど、日々の食事の中で家族や友人たちのために料理を作る二人からは、沢山のことを教えられてきたような気がします。

食べることの大切さを説き続けた祖母、料理を通して多くの人との出会いに恵まれた母。

様々なことを私に譲ってくれた二人に感謝しつつ、私も家族や友人たち、そして料理に関わる全ての方に、馬家の味と心を伝えていければと思います。

華都飯店 三代目馬 衣真